世界の中の日本文学に光を当てる――
文芸誌『jem』日本文学の海外受容・翻訳の状況を大特集した号を刊行したい!

小特集〈覚醒する韓国SF〉に込めた思い

こんにちは、発起人の木村夏彦です。

 

これまでの活動報告では主特集である「『世界の中の日本文学』の現在」をおもな話題としてきましたが、本日は小特集「覚醒する韓国SF」についてお伝えしていきます。

 

編者としては、韓国SFの持つ社会を照射する側面に強く惹かれています。これまで読んだ作品、書籍で好きなものを少しだけ挙げると、キム・チョヨプ、キム・ウォニョン『サイボーグになる』、キム・ボヨン『どれほど似ているか』、キム・ヘユン「ブラックボックスとのインタビュー」、デュナ「二番目の乳母」、ファン・モガ「透明ランナー」…。

 

廣岡孝弥さん、ファン・モガさん、パク・ヘウルさんが登壇された「新たなる韓国SFの世界」というトークイベントを去年の12月にアーカイブで視聴しました。以来、その世界の後景をなすものについてつよく知りたいと思うようになり、英訳を通して実作を読んだり、機械翻訳で韓国語の論文を集中的に読んだりしてきました。イ・ジヨンさんの「韓国SF―ジャンル固有の特性と現代的テーマ意識」は後者の出会い方です。「こんな凄い論考があるのか」と圧倒された結果、どうしてもこれは紹介する価値があるのではないかと直感し、廣岡孝弥さんに翻訳の打診をしてみました。現代の韓国の様相と日本の読者層を架橋してくれることを楽しみにしています。

 

キム・ヘユン「ブラックボックスとのインタビュー」は、どうしても前情報なしで読んでもらいたい類の秀作です。「周縁に位置する作品を積極的に紹介していく」ことを掲げる弊誌にこうした小説を訳出できることを、心から光栄に感じています。

 

本当は、わたし自身がこの小特集に記事を書きたいと狂おしいほどに(!)思っているのですが、その時間が確保できません。代わりとして、もともと人前で話すことにあまり自信のない人間が、ポッドキャストという形で小特集に込めた思いを語ってみました。もしよろしければチェックしてみてください。なお、韓国の作家、批評家との個人的なやりとりも踏まえたうえでなるべく不正確な内容がないようにつとめていますが、それでも至らない点はあるかもしれません。ぜひ忌憚なきご感想をくださると幸いです。

 

エピソードへのリンクはこちらです(Spotify)。

 

【内容紹介】

激動の社会変化を経験してきた韓国社会とSFとの遭遇/ル=グウィンをはじめとする英米SFと韓国SFとの関係/デュナの未訳の傑作/知っていればもっと面白い!歴史的コンテクストを理解するための未訳の記事/トランスナショナルな共鳴のありかたを視野に入れた『文藝』(河出書房新社)の誌面づくり/英語圏のSF誌clarksworldに掲載された小説やインタビューetc.などを通して、SFの持つ潜在的な社会変革の力について考えていきます。

 

★取り上げた主なもの

デュナ「二番目の乳母」(未訳)

キム・ボヨン『どれほど似ているか』

シム・ワンソンによるインタビュー集『私たちはSFが好き』(未訳)よりチョン・ソヨン、キム・ボヨンの項

素敵な新世界編訳『世界女性小説傑作選』(未訳)

アーシュラ・K・ル=グウィン「オメラスから歩み去る人々」

橋本輝幸「私たちの相違と共鳴」(「文藝」2021年春季号)

沼野充義+立原透耶+新島進+識名章喜+巽孝之「世界SFの透視図」(「三田文学」2019年秋号)

「2019年度韓国における日本研究調査」(国際交流基金ソウル日本文化センター)

金景彩、孫眞元「文学とジャンルの(不)和──1990-2000年代の韓国におけるSFの位相」(「慶應義塾大学日吉紀要 言語・文化・コミュニケーション」55号、2023年)

 

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イベントのご案内(再掲)

【文芸誌『jem』2号・特集「『世界の中の日本文学』の現在」プレイベント】

 

8/26(火)20:00から、『jem』2号の主特集「「『世界の中の日本文学』の現在」」に合わせたオンラインイベントを行います。冬に行われる刊行後のオンラインイベントとは別の追加開催です。

 

日本の現代文学はいま、世界でどのように読まれているのか?瀧口修造の英訳詩選集を昨年共訳で刊行し、また大森静佳の短歌の英訳などもされている法政大学専任講師の田中裕希さんをゲストにお迎えして語ります。

 

日本文学の海外受容を取り巻く状況は、現在大きく変化しています。前半は木村が語圏や地域をとくに限定せず、個人的に面白いと思っている現象、参加者のみなさまとともに考えていきたい問題、あるいは日本文学の海外受容について理解を深めるためのオススメの書籍や論文の紹介など自由に話を広げていく予定です(英語圏、韓国、中国、台湾、スペインの状況を話題にする見込みです)。後半は田中さんに、英語圏の現代詩の受容についてお話しいただきます。イベントの最後には質疑応答も受けつけます。みなさまのご参加をお待ちしています。

 

【ゲスト】

田中裕希(たなか・ゆうき)

詩人、翻訳家、法政大学専任講師。英語で詩作を行う。主な著書に詩集 Chronicle of Drifting(Copper Canyon Press、2025)。共同翻訳に瀧口修造の詩集 A Kiss for the Absolute: Selected Poems of Shuzo Takiguchi(Princeton University Press、2024)。The Paris Review, Poetry などに詩を掲載。最近では、歌人・大森静佳の短歌英訳を手がけている。

 

【料金】1000円

【日時】8/26(火)20:00~21:00

イベントページ

https://peatix.com/event/4519140/

 

※冬に行われる『jem』2号刊行後のオンラインイベント(クラウドファンディングの限定リターン特典)とは別の追加開催です。どなたでも参加可能です。

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ストレッチゴール、本気で挑戦して参ります。引き続きよろしくお願いいたします。

2025/08/13 02:20